神林長平先生の昨年10月発売小説を読了。以下ネタバレ有り。
序盤は重いが、ズレが出てくるところから面白い
読み始めていきなり始まるのが死刑執行までのシーン。インパクトのある始まりだけど、そこからしばらく長かった。離婚を経験した独り身の男が、行方が分からない父のために帰郷する。おそらく自分が10~20代前半くらいだったらここで挫折してしまいそう。
面白くなってくるのは、登場人物たちの間に「ズレ」が生じ始めるところ。設定的なズレは最初からあるが、登場人物たちの間に生じ始める認識のズレが出てくるあたりからぐっと面白くなってくる。
未来ガジェット的な要素はほとんどない。
一方で、戦闘機や機械生命、宇宙船や人外のキャラクターなどのSF要素はゼロ。何かを爆破したり、殺したりといったことも全然ない(死刑執行はあるけど)。
代わりに大きなテーマとして扱われているのが科学と宗教。全編にわたって、科学的価値観と宗教的(キリスト教的)価値観との違いが描かれてます。その中で面白かったのは、主人公の一人「タクミ」が言った、宗教的な価値観はどんな出来事や物も宗教的なものへと捻じ曲げて解釈する。それはすなわち相手を理解しないと宣言することと同じである。というような言葉。
あぁ、自分が感じていた宗教への違和感というのはこういうところにあったのかもしれないと思い至る。他者とのコミュニケーションにおいては、必ず自分と他者との間にエンコーディングやデコーディングが働くものだと思う。そしてそこで生じる大きな齟齬がコミュニケーションに問題を引き起こすが、宗教的なそれは特に露骨な形で「見えてしまう」のだと思う。
最後までしっとり。
物語は後半、ぐっと解説が始まるところから加速するが、それでも全体的にはしっとりとした雰囲気。全編ゆったりとした気持ちで読み終わることができるというのも、珍しい。
というわけで、メカとか出てこないけどかなり読み応えがある感じ。最近の著作の中では一番面白いかな。
ただちょっと気になるのが、おじいちゃんすごい死んじゃいそうなところ。そこで寝ちゃダメー!あと表紙。西島大介さんの絵だけど、これは一体…。ちょっとファンタジー過ぎるような。