伊藤計劃「ハーモニー」レビュー

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

「虐殺器官」に続いて「ハーモニー」を読了。面白かった。以下ネタバレ微妙にあり。

HTMLみたいにマークアップされたテキスト

書き出しからHTML(ホームページを作るためのプログラムみたいなもの)みたいなマークアップで物語がスタート。全篇これなのであまり馴染みのない人には面白さが若干減ってしまう予感。自分は普段から触れている分野なのですんなり理解することができました。

ハーモニーのマークアップ(プログラムみたいな部分)の読み方

ちなみにマークアップついて簡単に説明をすると

・原則として括弧(< >)で始まったら括弧で閉じる。閉じる時は、どの括弧の閉じる括弧か分かるようにスラッシュを添えて閉じる。例えば<happy>~</happy>みたいに。

・時々現れる括弧でくくられたテキストは、そこを「こういう感情で読んでね」という説明。例えば<happy>とても幸せだった</happy>とあれば、これは幸せな気持ちだった、という意味。

・何で括弧を閉じるか?というと、コンピュータは「察する」のが苦手なのと括弧が入れ子になる時があるから。本編ではややこしいからか出てこなかった気がするけど(出てきたかも)、実際は人間の感情だから複数の感情が入れ子になる時もあるはず

・例えば
<surprise>わたしがプレゼントの中身を受け取ると、中には<happy>クマのぬいぐるみが入っているのを見つけた。</happy></surprise>
みたいに、驚きと喜びが混ざった感情を表現するとかありそう。

・括弧の効果は括弧の中だけに及び、他の部分に影響は及ぼさない。

・各章冒頭で書かれた数行のタグ(括弧で閉じられた英文)は、「これは感情を表現するコンピュータ用(ハーモニー化した人間用)のテキストですよ」という宣言のこと。ストーリー上は特に気にしなくてもいい。

「虐殺器官」の後の世界

序盤の女の子たちのちょっと耽美な会話がスタートし、全篇これかとちょっとしんどさを感じる。が次章に入って舞台は戦場。ガラッと変わるシチュエーションに引き込まれる。

そして明らかになる過去の崩壊劇。これ、虐殺器官の彼がやっちゃったことの結果なんですね。でも虐殺器官についてのノウハウは失われているようで、それに関する言及についてはなし。博士がちらっと的を得た考察をする程度。

また今作は前作で目立った最新兵器などについての描写もほとんどなし。これは主人公たちの設定とも絡んで良かったと思う。そういう兵器を出されてしまうとどうもそっちに目が行ってしまうというオタクの悲しい性があるので。戦闘もメインではないし、テーマ的には要らない要素だったと思う。

完全なハーモニーとはどういう状態か

個性を失って完全にハーモニーを得た自分というのがどういうものか、というのを考えてみる。が、なかなか難しい。ひとつ思い至ったのは「フロー状態」。スポーツなどで感じる状態のことで、時間の流れが変わるように感じたりする状態のこと。

熱中しているフロー状態というのは、意思はあまり関係なく最善と瞬時に判断する一手を続けていくという意味で機械的であるような気がする。自分がよくこれを感じるのはゲームのプレイ中。練度が上がってきたゲームは、あまり考えるということはなく次々と反射的にステージを進めていくことができる。

この状態っていうのはある種の忘我状態に近いものがあって、ミァハが言うような「恍惚状態」に近いものがある気がする。日々の生活が常時フロー状態って考えると、なんともストレスがない世界だ。全ての判断に心地よさが伴い、迷いや葛藤、罪悪感が消滅したら人はどうなるのだろう。

おそらく世界はあらゆることがとてもスピーディに進んでいく。けれど、それはヒトとしての死のスピードをも早めてしまうような気がする。人が何かを残そうとする切望も失われてしまうだろうし、文化や歴史といったものもいずれ失われてしまうだろう。

いろいろ考える余地を生む名作

というわけで、色々考えさせられることが多い「ハーモニー」。読んだ後に思索を重ねていける小説っていうのはとても貴重。さて、次は「屍者の帝国」を読もう。

===今日の寝かしつけソング===

STELLA BY MOOR:菅野よう子


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