SF

聖刻シリーズという小説を君は知っているか

聖刻1092聖都編 I (ソノラマノベルズ)

「聖刻1092」という小説シリーズがある。1巻の発売は1988年。今で言うところのラノベに分類されるだろうこの作品を、30代で知っている人はどれほどいるだろうか。今日はこの聖刻シリーズの魅力について語ろう。

平たく言うと、群雄ロボット物。

舞台は中世っぽい感じの大陸。国をまたがる巨大な交易路を舞台に主人公たち一行の冒険譚。主人公たちが操るのは、操兵(そうへい)と呼ばれる人型兵器。全高8メートル程度のロボットを連れ、襲い来る敵たちと戦いながら旅をするのだ。

主人公たちを狙うのは謎の練法師(れんぽうし。魔術士みたいなもの)組織や、傭兵団、巨大な国家など様々。主人公たちを離れて、敵対組織など色々な視点から物語が描かれているので内容が濃い濃い。

最近アルスラーン戦記や銀英伝のリニューアルなどの一昔前のコンテンツが話題だけど、こっちもなかなか面白いよ。

操兵(ロボット)の設定が面白い

小説のキーになるのが、この世界に流通している武器である「操兵」。とりあえず主人公機の「ヴァシュマール」の画像を見て頂戴。

か、かっけぇ…。また自分がハマったのはこの操兵の設定。幾つか挙げてみると

動力は顔に付ける「仮面」

メイン動力は、顔に装着する仮面。仮面には特殊な宝石が配置されていて、その純度や配列によって出力やらの性能が変わったりする。仮面を破壊されたりするとその操兵は死ぬ(基本的に仮面と機体はペアなので、代用が効かない)。

仮面が乗り手を選ぶ

操兵には色々あって、指揮官クラスの「狩猟機」や従者の乗る「従兵機」、あと練法(魔法)が使える「呪操兵」など。このうち狩猟機の仮面は格が高く、乗り手を選ぶ。相性が悪いと出力が下がったり、起動しなかったり。FSSのファティマみたいやね。

水がないと動けない

冷却水が切れるとあっという間にオーバーヒート。しかも馬鹿みたいに水を食うので、運用がとても困難。水がなくて動けない!的なシーンがわりと多く、戦闘以外ではかなりのお荷物。

また舞台が中世っぽい感じなので、かなり泥臭い感じで運用されてます。基本的に泥だらけホコリまみれ。パーツも敵から奪ったり、壊れたまんま使ってたり。

魔術もあるよ!ファンタジー要素満載

上でちらっと書いたけど、魔術要素も有ります。基本的には火を放ったり、氷漬けにしたりと分かりやすいタイプの魔法。基本的には敵対組織が使います。

また魔法にはそれぞれ8種のタイプがあって(火とか水とか)、それぞれが門派を作ってます。門派ごとに専用の操兵がいるけど、これもなかなかかっこいい。例えば主人公のライバル機である「フェノ・ベルガ・ラハン」。手がいっぱいあるのは、魔法の印を組むため。

かわいい女の子たちも出るよ!

もちろん気になる女の子たちもばっちり!主人公たち一行にはちょっと生意気な口うるさい少女、ヒロインは幼なじみ属性がついたお姫様、敵にも色気と艶やかさたっぷりの女練法士と色々取り揃えられてます。画像は検索したけど全然出なかったよ…。ちなみに挿絵はあんまりないので、みんな想像力で補填してくれ!

とまあ、以上が聖刻の魅力。色んな変遷を経つつ、現在も続いてるシリーズなので人気はあるんだと思う。リアルで知ってる人に会ったことないけど!

まあ今振り返ってみると、挿絵がやっぱりとっつきにくいなあ。幡池裕行さんバージョンはいいんだけど、後半の絵柄がキツイ。内容もそうだけど、このスタイルに慣れた世代でないと食指が動かないよね。アニメ化でもされたらまた別なんだろうけど。

 

===今日の寝かしつけソング===

ホントの笑顔で:桑島法子

FSS13巻が届いた!フィルモアとラーンを巡る政争とその他濃い方々登場!

ファイブスター物語 (13) (100%コミックス)

デザイン・設定一新から初の単行本。9年待ったぜ。

お、なんか変わってる

マンガページもカラーが入るようになったみたい。これは連載時イメージできていい感じ。あと連載の時もそうだったけど、新ワードをキャプションで大きめに入れるようになってますね。新規読者に配慮…ということもないか。

肝心のメカデザインの大幅な設定変更について、私は許容派。これまでの優美なデザインももちろんいいんだけど、新しい複雑な構造も面白い。並べて比較すると、新デザインは新しさと面白さを感じます。特にLEDミラージュなんかは前のデザインがちょっと野暮ったいかもと思ってしまう。

MHの名前もそうだけど、マイスターやらなんやらの名称が変わっちゃったのはちょっと分かりにくいなあ。読んでていちいちつっかえてしまうのが難点。

メインテーマはダイ・グと詩女、クリス

前巻に引き続いて、メインテーマはダイ・グとクリス、それにフンフトさんが加わったフィルモア帝国とボォス星を巡る政争。いやはや、フンフトさんはこんな軽い感じもできる人なのね。微妙な三角関係かと思いきや、いろんな人たちに翻弄されるクリス。可哀想だのう。

他にもタイ・フォンとナインの出会いやら、萌えを振りまくツバンツヒ博士、ちゃあとその変態ファティマ他と見どころ沢山。それぞれページ的なボリュームは少ないけど、これまでの背景やDesignsの情報があるからすごい濃くて満足できる内容です。

待ってたキャラクターたちが続々登場

魔導大戦もじわじわ進み、登場待ってたキャラクターたちが続々登場してきました。成長したジャコー君やブラウ・フィルモアさん、そして我らが天照陛下とラキシス姫様。次巻が気になる展開。次は、3年後くらいに出てくれたら…。

 

===今日の寝かしつけソング===

涙の種、笑顔の花:中川翔子

伊藤計劃「ハーモニー」レビュー

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

「虐殺器官」に続いて「ハーモニー」を読了。面白かった。以下ネタバレ微妙にあり。

HTMLみたいにマークアップされたテキスト

書き出しからHTML(ホームページを作るためのプログラムみたいなもの)みたいなマークアップで物語がスタート。全篇これなのであまり馴染みのない人には面白さが若干減ってしまう予感。自分は普段から触れている分野なのですんなり理解することができました。

ハーモニーのマークアップ(プログラムみたいな部分)の読み方

ちなみにマークアップついて簡単に説明をすると

・原則として括弧(< >)で始まったら括弧で閉じる。閉じる時は、どの括弧の閉じる括弧か分かるようにスラッシュを添えて閉じる。例えば<happy>~</happy>みたいに。

・時々現れる括弧でくくられたテキストは、そこを「こういう感情で読んでね」という説明。例えば<happy>とても幸せだった</happy>とあれば、これは幸せな気持ちだった、という意味。

・何で括弧を閉じるか?というと、コンピュータは「察する」のが苦手なのと括弧が入れ子になる時があるから。本編ではややこしいからか出てこなかった気がするけど(出てきたかも)、実際は人間の感情だから複数の感情が入れ子になる時もあるはず

・例えば
<surprise>わたしがプレゼントの中身を受け取ると、中には<happy>クマのぬいぐるみが入っているのを見つけた。</happy></surprise>
みたいに、驚きと喜びが混ざった感情を表現するとかありそう。

・括弧の効果は括弧の中だけに及び、他の部分に影響は及ぼさない。

・各章冒頭で書かれた数行のタグ(括弧で閉じられた英文)は、「これは感情を表現するコンピュータ用(ハーモニー化した人間用)のテキストですよ」という宣言のこと。ストーリー上は特に気にしなくてもいい。

「虐殺器官」の後の世界

序盤の女の子たちのちょっと耽美な会話がスタートし、全篇これかとちょっとしんどさを感じる。が次章に入って舞台は戦場。ガラッと変わるシチュエーションに引き込まれる。

そして明らかになる過去の崩壊劇。これ、虐殺器官の彼がやっちゃったことの結果なんですね。でも虐殺器官についてのノウハウは失われているようで、それに関する言及についてはなし。博士がちらっと的を得た考察をする程度。

また今作は前作で目立った最新兵器などについての描写もほとんどなし。これは主人公たちの設定とも絡んで良かったと思う。そういう兵器を出されてしまうとどうもそっちに目が行ってしまうというオタクの悲しい性があるので。戦闘もメインではないし、テーマ的には要らない要素だったと思う。

完全なハーモニーとはどういう状態か

個性を失って完全にハーモニーを得た自分というのがどういうものか、というのを考えてみる。が、なかなか難しい。ひとつ思い至ったのは「フロー状態」。スポーツなどで感じる状態のことで、時間の流れが変わるように感じたりする状態のこと。

熱中しているフロー状態というのは、意思はあまり関係なく最善と瞬時に判断する一手を続けていくという意味で機械的であるような気がする。自分がよくこれを感じるのはゲームのプレイ中。練度が上がってきたゲームは、あまり考えるということはなく次々と反射的にステージを進めていくことができる。

この状態っていうのはある種の忘我状態に近いものがあって、ミァハが言うような「恍惚状態」に近いものがある気がする。日々の生活が常時フロー状態って考えると、なんともストレスがない世界だ。全ての判断に心地よさが伴い、迷いや葛藤、罪悪感が消滅したら人はどうなるのだろう。

おそらく世界はあらゆることがとてもスピーディに進んでいく。けれど、それはヒトとしての死のスピードをも早めてしまうような気がする。人が何かを残そうとする切望も失われてしまうだろうし、文化や歴史といったものもいずれ失われてしまうだろう。

いろいろ考える余地を生む名作

というわけで、色々考えさせられることが多い「ハーモニー」。読んだ後に思索を重ねていける小説っていうのはとても貴重。さて、次は「屍者の帝国」を読もう。

===今日の寝かしつけソング===

STELLA BY MOOR:菅野よう子

「虐殺器官」レビュー。ハードとライトが混ざり合った良作。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

うーん、面白い

今更ながら、伊藤計劃さんの「虐殺器官」を読了。作者が亡くなってるということは知っていたので、続刊とかもないか、後回しにしようとということでここまで読むのが遅くなってしまった。

一言で言うと、ハード目な内容なのにとても読みやすくて面白い。海外風ハードSFの雰囲気がありつつ、日本のライトノベル的な雰囲気も混ざり合ったハイブリットなSF小説だと思いました。

情景描写はゲーム的

読みやすさの一因としては、情景描写がとても分かりやすいこと。読んでいて思ったのはなんだかゲームのプレイ画面が浮かぶなあという感じ。特に戦場への投入ポッドまわりの描写に手がかけられているシーンなんかは、ゲームのイントロダクションにも通じる所があって特にそれを感じました。あとがき読んで分かったけど、メタルギアシリーズの愛好者だったんですね。

未来武器とかの描写は薄め

主人公はスネークよろしくスニーキングが基本スタイルなので、装備関係は肉体調整系(痛覚遮断とか感情調整とか)やスニーキング補助(光学迷彩)がほとんど。未来兵器を活用して~みたいなところはほとんどなし。意外だったのはネット系の兵器がほとんど出てこないところ。最近のSFにしては珍しい気がする。変に「銃弾が~で」みたいなマニアックな描写がないのは良点。

しっかりとメインテーマを描ききる

母の死という主人公が抱えている問題が、彼の暗殺という仕事を軸に絡めながら無駄なく全篇通して描ききれている所が秀逸。軸を通しつつ、無駄な部分を感じることがない所というのは、もちろん伊藤さんの力もあると思うけど、日本人が描いたからというところもあると思う(海外SFだと、どうも価値観や生活様式が違うのか何故この描写に拘るのかみたいなことがちらほらある)。

ごつめのテーマを描きつつ、ここまで読みやすいというのは、他人にオススメしやすいという意味でも大きな価値がある。SFってかなり細分化されてて、なかなか両手を挙げて誰にでも「オススメできます!」みたいな本ってあまりないけど、これはそれができる珍しいタイプ。もちろん万人向けの軽薄なもの、という意味ではなく中身がしっかり詰まってるという意味。

アニメ化は…けっこういいんじゃないだろうか

アニメ化公式サイト(http://project-itoh.com/)を見ると、動画少しだけ公開されてました。ハードな感じを表現できてていい感じ。制作はマングローブ…原作付きなら大丈夫だよね!虐殺器官についてはTVシリーズより絶対映画の方が良い感じ。スピード感があるのでダラダラぶつ切りにしないでがつんと映画で見たい。CVは櫻井さん?なのかな。

というわけで、次はハーモニー。いやー、こんなに読むのが楽しみな作家さんは久しぶりだ!

 

===今日の寝かしつけソング===

空の終点:手嶌葵

仮想空間(サイバースペース・メタバース)系SFのベスト5

スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

というわけで、私の好きなSFジャンル「仮想空間」系についての覚書。

ひとまず仮想空間の定義は、ざっくりと「現実と併存するネットワーク上に構成される世界」とします。サイバースペースとか、メタバースとか色々言葉があるけど今回は特に定義を分けない。またMOとMMOの違いみたいに多人数でログインできる・できないとかはひとまず無視。

第5位:ニューロマンサー

仮想空間系SFの先駆けで、”Cyber Space”という言葉を作った小説。といっても1984年に出版とそんなに古い小説でもない。翻訳が秀逸で、「没入(ジャック・イン)」とか「離脱(ジャック・アウト)」とか訳しちゃうセンスがすごい。また一番最初に今でも通用する仮想空間に関するたくさんの設定を詰め込んだのがすごい。

仮想空間系でとりあえず一度は読んどけ的な感じだけど(もちろん面白いけど)、ちょっと硬めな文体・テーマなので最初にオススメはしない。

第4位:クラインの壺

和製仮想空間小説。ネットワーク系ではなくて、個人で接続する体感型の没入システムの話。若干ホラーなSF小説。ちなみにNHKでドラマ化されており、小さい頃に見て若干トラウマ。

似たテーマには「クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))」というこちらも日本人の書いた仮想空間系SF有り。こちらは15年前に書かれたソードアート・オンライン、みたいな感じの剣と魔法モノ。こういう世界っていつになったら実現するんだろう、と当時思ってたけど、オキュラスとか見てるとわりと早く実現しそうな予感。

第3位:順列都市

グレッグ・イーガンさんの書いた仮想空間モノ。仮想空間内に作られた仮想人格のお話。タイトルがかっこいい。上下巻構成でがっつり読み応えもあり。

かなり詳細な設定や、テーマに対する考証が書き込まれているので腰を据えてじっくり読むことが必要。面白いけど、若干SF予備知識が必要なところもあるのでいきなりここからスタートというのはちょっと大変かも。

第2位:小指の先の天使

他と比べて仮想空間色はかなりライト。ただ仮想空間と現実空間の2つを長いスパンで描いている所が他と違って面白い。ちなみにこの本の仮想空間は、外部から完全に没入するタイプ。分かりにくい例えをすると、Falloutのトランキルレーンみたいな感じ。

作者の神林長平さんは仮想空間内のアバターを扱った「だれの息子でもない」とかも面白い。勿論仮想空間ではないけど戦闘妖精・雪風(改)も。

第1位:スノウ・クラッシュ

個人的ナンバーワンはこれ。ニール・スチーブンスンさんのスノウ・クラッシュ。上下巻構成。表紙はアニオタにはおなじみの鶴巻和哉さん。下巻の表紙を飾るY.Tがかわいい。

とにかくこれでもかと色んな設定が詰め込まれ、主人公たちのスピード感が描かれてて全篇飽きない。どことなく洋ゲーの雰囲気が漂ってて、そういう下地があるとシーンを想像しながら読み進めていけると思う。ちなみに日本ではあまり評価が高くないらしい。何故だ。

ニール・スチーブンスンさんは「ダイヤモンド・エイジ (海外SFノヴェルズ)」もオススメ。インタラクティブな電子書籍を巡って世界が大騒動、という話(あまりにもざっくりしている)。

 

というわけで以上5冊+α。これからこのジャンル読みたいみたいな人の参考になれば。

 

===今日の寝かしつけソング===

I do:Ilaria Graziano